「あ、あのさ。ヘルメスくん。今日、なんか変わったことあった?」
「午後休取ってプールで泳いじゃうくらい変わっちゃいましたよ。僕の人生が前向きに」
「ありがと。ほかには得にない?」
「ほかにですか?何かあったかなぁ。朝からユイさんとメッセージのやりともできて、午後もこうして話せてすごくうれしいです。それが一番、僕にとって変わったことかなぁ」
「そっか。うん。分かったよ。なんでもない。またね」
「はーい。また夜に!」
ヘルメスくん、何も言わなかった。早苗から「いいね」が来たことは得に変わったことではなかったのかも。すでにたくさんの女性からたくさんの「いいね」が来てるから普通のことなのかも。もしかしたら私の「いいね」がはじめて、なんていうのも嘘だったのかも。急に心細く、彼のことが信用できなくなった結衣だった。早苗のアプローチで彼がなびくなら、それはそれで仕方のないこと。恋愛は自由だもん。これ恋愛だったのかな。結衣はスマホを握りしめたけれど、金属の冷たさで手が痛かった。
早苗に聞いた方がいいか。またはヘルメスからの告白を待った方がいいか。そもそも、ヘルメスが結衣にそんなことを逐一報告する義理も義務もないのだ。そんなことは分かっている。そもそも出会い系をやっている男なのだから、出会いを求めている。だから早苗と出会ったって何も責められる話ではない。
その日の晩は夫のヨシがお土産にイチゴを買ってきてくれた。旬だから駅でたくさん売っていた、と嬉しそうに。それなのに私は「今日は食べたくない」と不機嫌にして早々に一人寝室に入ってしまった。夫は多分、昨晩のことで私が不機嫌になっていると思ったかもしれない。ごめんなさい。本当はヨシくんのことじゃなくて。早苗とヘルメスくんのことが不安でウジウジしているだけ。やさしいヨシくんに八つ当たりしてしまう自分にますます自己嫌悪に陥る。
メッセージを確認する。早苗だ。
「今度会うことになったよ」早苗の満面の笑みが浮かんだ。そして目の前が真っ暗になった。




